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婦人科腫瘍研究会 インタビュー

東海卵巣腫瘍研究会(TOTSG)

芳川 修久 先生(名古屋大学大学院医学系研究科 産婦人科学 講師)

更新日:2023年6月22日

●TOTSG発足の経緯と理念

 東海卵巣腫瘍研究会(TOTSG)の発足は、明文化された記録は残っていないものの1986年といわれている。TOTSGが研究対象とする卵巣腫瘍は、卵巣に生じる病理組織学的特性を異にする悪性卵巣腫瘍である。研究会発足以降のTOTSGにおける累積登録件数は約5,000件であり、本邦で有数の症例数を誇っていると考えている。悪性卵巣腫瘍は様々な組織型を含むため、単一施設において経験した症例の解析では病態、治療成績などを正確に捉えることは困難であり、多施設が共同して一定数を集積して研究すべきがん種といえる。また、卵巣腫瘍の病理診断は容易ではない上に、それを専門とする医師の数も多くはない。したがって、卵巣腫瘍を対象とした臨床研究は、可能な限り多くの施設で得られた検体を病理専門医が常勤する施設に集めて解析し(中央病理診断システム)、その結果を検体提供施設にフィードバックするとともに施設間で情報共有する形で行われることが望ましく、その実践を目的に立ち上げられたのがTOTSGである。

 

●会の組織概要と入会基準

 TOTSGへの参加は個人ではなく、施設単位となっている。総括事務局は世話人会で選出される代表世話人の所属施設に置くという会則に従い、現在は名古屋大学医学部附属病院(代表世話人は産婦人科教授 梶山広明先生)にある。新たな参加に対する入会基準は設けていない。なお、愛知県における新規悪性卵巣腫瘍患者は年間500~600例と推計されるが、現在、TOTSGはそのうち200例程度を把握している。

 

●研究業績

 上述のように、TOTSGの目的は卵巣腫瘍の診断および治療成績の向上と会員施設間の緊密な連携に寄与することであり、その実現のために研究発表、年次研究会の開催、教育を実施している。研究論文の中にはNCCNガイドラインエビデンスとして引用されたものもある。

 

●研究者の育成、臨床研究へのモチベーション向上も盛り込んだ

 年次研究会を開催

 TOTSGでは年に1回、世話人会と研究会を開催している。世話人会では卵巣腫瘍の症例検体およびデータ集積の状況、論文投稿および受理状況が報告される。また、年次研究会にはTOTSGの会員施設に限定せず、同門医師にも広く参加を募っている。プログラムは、高名な研究者を演者に迎え、最新のトピックスをテーマに掲げた特別講演および教育講演に加えて、TOTSGに集積されたデータの解析結果や希少な症例の経験について若手医師から一般口演という形式で発表する構成となっている。なお、新型コロナウイルス感染症の影響により2019年度と2020年度は開催を断念、2021年度と2022年度は規模を縮小してWeb形式で開催された。次回の年次研究会の開催時期や開催形式は検討中である。

 年次研究会のプログラムに一般口演を取り入れているのは、若手医師のTOTSGへの参加意識、臨床研究へのモチベーションを高めるためである。TOTSGが採用している“中央病理診断システム”は、結果のフィードバックだけにとどまれば臨床現場の医師にとっては多忙な中で行わなければならない追加的な仕事となる。単なる仕事とならないよう、大学で帰局した若手医師の先生には自ら解析して結果を発表するという形でTOTSGに集積されたデータにじかに触れてもらうことが重要と考え、年次研究会における研究発表や論文作成といったこともしていただくようにしている。研究結果を発表することで、自分もTOTSGの一員であるという実感が得られ、臨床研究へのモチベーションの向上につながっている。

 今日の全国規模の臨床研究グループにおける主立った活動は、real world evidenceの構築に主眼を置いていることが多い。その背景には、無作為化前向き臨床試験で優越性が検証された新規治療が、間を置くことなく従来の標準治療から一気に代替される時代を迎えたことが挙げられる。そして、real world evidenceの構築にはreal world dataが不可欠である。このように、TOTSG発足時に掲げた理念は30年経過しても色あせないばかりか、ますます重要性を増している。この状況を年次研究会における一般口演を通じて特に若手医師に実感してもらい、さらにはTOTSGへの参加意識の向上につなげることが重要である。

 

●課題と将来展望

 現時点の代表世話人と世話人の間の緊密な関係性がTOTSGの活動の屋台骨を形成している。代替わりの際、それに伴う影響をいかに抑制するかが、今後のTOTSGにとっての課題の1つである。その方策として、参加施設の産婦人科医局構成員が情報交換を密にし、蓄積したデータを有効活用することが考えられ、現状可能な取り組みを検討中である。

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