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婦人科腫瘍研究会 インタビュー

東北婦人科腫瘍研究会 (TGCU)

横山 良仁 先生(弘前大学大学院医学研究科 産科婦人科学講座 教授)

更新日:2023年6月22日

●発足から現在に至る経緯

 東北婦人科腫瘍研究会(TGCU)は、2003年に当時の岩手医科大学医学部産婦人科学講座主任教授であった杉山徹先生を代表者として発足した。現在は岩手医科大学、秋田大学、東北大学、山形大学、福島県立医科大学、宮城県立がんセンター、弘前大学、東北医科薬科大学の東北8病院に北海道大学病院を加えた9施設が参加している。北海道大学病院は産婦人科教授 渡利英道先生を講演会の演者として招聘したことがきっかけとなり、2021年より参加している。

 

●組織および活動概要

 TGCUでは施設単位で会費を納めており、それぞれの産科婦人科医局に所属する医師であれば誰もが参加可能である。代表者、世話人、幹事を除く一般会員の名簿はなく、現在の明確な会員数は不明である。

 定例会合は総会を年1回(2月)、世話人会/幹事会を年3回(2月の総会、6月の東北連合産科婦人科学会、10月の北日本産科婦人科学会に合わせて開催)、講演会を年2回(2月の総会と10月の世話人会/幹事会に合わせて)開催している。なお、TGCUでは総会、世話人会/幹事会を合わせてビジネスミーティングと称している。ビジネスミーティングには研究会幹部以外の参加も可能であり、新たな研究テーマのプレゼンテーションと採択の可否に関するディスカッションを行う。提案したテーマが採択された場合は発案者が研究計画書を作成、所属する施設の臨床試験審査委員会(IRB)での承認後、TGCUとしてデータ収集に取りかかる。

 

●後方視的研究を主体に前方視的研究も実施

 TGCUの理念および目的は1の通りである。TGCUはホームページを設けていないため、理念と目的は医学雑誌に掲載された東北大学病院産婦人科の高野忠夫先生の記事により公表された形となる。いずれも臨床研究を行い論文化する過程を重視したものであるが、その主体は後方視的臨床試験である。その理由として、後方視的臨床試験であれば多額の資金を必要とせず、TGCU参加施設で短期間に必要症例数の収集が可能である点が挙げられる。研究内容をまず国内の全国レベルの学会で発表し、機会が得られれば著名な国際学会で発表、学会発表と並行してその内容を論文化する。この過程を参加メンバーに経験させることで若手医師の育成につながっている。前方視的臨床試験も実施してはいるが、人・物・金の制限もあり、あくまでも高い質が担保できなければ無理はしない方針である。

 他の地方グループあるいは全国規模の研究グループとの共同研究も行っている。稀少疾患である子宮平滑筋肉腫に関するJGOGによる全国調査研究は、東北大学病院産婦人科准教授の徳永英樹先生が東北地方で行った調査研究論文がきっかけとなり実施された

​ 図1/TGCUの理念・目的

TGCUの理念_目的.png

●地方グループとしての利点と限界

 上述のように、後方視的臨床試験がTGCUが行う臨床研究の主体であり、特徴ともなっている。背景には、地方グループの機動性、すなわち必要症例数の登録からデータの解析、そして論文化までが極めて迅速に行える体制がある。参加施設が少数であることのメリットとして全員が顔見知りであり、自由闊達な意見交換が行えるため、ビジネスミーティングで臨床研究の骨格さえ決まれば、地方の大学病院といえども十分な必要症例は収集可能である。加えて、TGCUには生物統計学を専門とする産婦人科医経験者がいるため、外部委託せずにデータの統計解析を行える。そのため、後方視的臨床研究に限れば、地方グループの機動性が大いに力を発揮する。

 一方、前方視的臨床試験では地方グループの限界が露呈する。前方視的臨床研究を行うための人・物・金のいずれもが不足している。現在のボランティア的事務局では業務を処理しきれず、資金不足のためランダム化試験には必須のデータセンターを設けることは難しい。無理をすれば研究の質の低下を招きかねない。現体制でも質の確保が可能と判断された場合は、前方視的臨床研究も実施している。しかし、前方視的臨床研究の目的である新規治療の保険適用に役立つエビデンス構築、あるいはガイドライン上の位置づけの明確化、ということを考慮すれば、All Japanの布陣で臨むのが基本であり、地方グループはそのための判断材料を後方視的臨床試験により提供するのが使命と考えている。

 

●将来展望~若手医師育成と研究会への参加が鍵

 TGCUの今後の活動は若手、特に女性医師の参加が鍵を握っていると考えられる。若手医師を育成するには、まず、婦人科腫瘍に興味を持ってもらう必要がある。新型コロナウイルス感染症により学会などの開催が延期となる中、TGCUは年2回の講演会開催をオンライン配信の導入により継続した。その結果、以前よりも出席者数が増加し、特に女性医師の参加が目立つようになった。この事例は、女性医師の出産・育児といったハンディキャップの解消が若手医師育成の1つの鍵であることを示唆している。先の婦人科腫瘍専門医試験では初めて合格者の半数以上を女性医師が占めており、TGCUでも同様に参加メンバーの半数以上が女性医師であった。現在、TGCUの幹部に女性医師はいないが、近い将来、半数は女性が占める状況も想定され、それが理想的な運営の形と考えている。

 また、若手や中堅医師は国際的な研究グループへの参加を希望している場合が多い。JGOGや日本婦人科腫瘍学会も臨床研究グループの国際化を奨励しており、地方グループもこの流れに乗るようにとの働きかけが行われている。TGCUとしても人材派遣の要請にいつでも応じられる準備をしていきたいと考えているが、働き方改革が求められますます時間が限定される中、日常業務と研究の両立をいかに図るかという難題に直面していることも事実である。これはTGCUに限らず、全国的な問題である。

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