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Gynecologic Oncology today 創刊号

​第60回日本癌治療学会学術集会:婦人科がんトピックス

OWS11-3 婦人科領域におけるHBOC診療

矢内原 臨 先生(東京慈恵会医科大学 産婦人科学講座)

更新日:2022年12月20日

 卵巣がんにおけるPARP阻害薬の有効性は主に4つの大規模臨床試験(SOLO1試験、PAOLA-1試験、PRIMA/ENGOT-OV26試験、VELIA/GOG-3305試験)で示されてきた。そのうち今年のESMOでは、BRCA病的バリアントを有する(BRCAm)患者のみを対象にオラパリブの維持療法を検討したSOLO1試験から観察期間7年の全生存率(OS)が発表され、7年OSはオラパリブ群が67.0%であり、プラセボ群の46.5%と比して高いことが明らかになった(ハザード比 0.55、95% CI: 0.40 – 0.76、p=0.0004)。またオラパリブ+ベバシズマブ併用による維持療法を検討したPAOLA-1試験のサブ解析からは、BRCAm 集団における5年OSがオラパリブ+ベバシズマブ併用群で73.2%に上り、プラセボ+ベバシズマブ併用群の53.8%を上回ったことも報告された。このようにPARP阻害薬は主要評価項目のPFSだけでなくOSにおいても有効性を示すことが明らかにされつつある。
 

 東京慈恵会医科大学附属病院におけるコンパニオン診断を用いた進行卵巣がんの治療戦略は、まずステージⅢで残存腫瘍がない症例とステージⅣもしくは残存腫瘍を有する症例に分け、前者には術後のDose-dense TC療法時にmyChoice診断システムを実施する。相同組換え修復欠損(HRD)陽性症例ではTC+ベバシズマブに切り替えてから、ベバシズマブ+オラパリブの維持療法に移行し、HRD陰性症例ではDose-dense TC療法を継続し(計6サイクル)ニラパリブに切り替える。ステージⅣもしくは残存腫瘍を有する症例の場合、Dose-dense TC療法を6サイクル行い、ニラパリブに切り替える。遺伝学的検査は任意であるが、出来るだけ受けるよう患者に推奨している。これまで同院関連施設では75例にBRACAnalysis診断システムを、64例にmyChoice診断システムを実施した。BRACAnalysisのBRCA遺伝子病的バリアント陽性率は16%、myChoiceではBRCA遺伝子病的バリアント陽性が19例、BRCA遺伝子病的バリアント陰性でHRD陽性が13例に検出され、HRD陽性率は50%であった。
 

 昨年改訂された遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドラインの卵巣がん領域では、6つのClinical Question(CQ)が提示された。これらはBRCA病的バリアントを有する卵巣がん患者だけでなく、卵巣がん未発症のBRCA病的バリアント保持者を対象とした項目も含まれる。例えばCQ5は「BRCA病的バリアント保持者の卵巣癌発症リスク低減のために低用量経口避妊薬(OC)あるいは低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)の内服は推奨されるか?」との問いで、がん未発症者の卵巣がんに対する化学予防の有効性に関する項目である。本CQの背景には、がん未発症のBRCA病的バリアント保持者に対するリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)は保険適用外であること、また有効な卵巣がんスクリーニング検査がないことなどがある。卵巣がんリスク低減のアウトカムについては、メタ解析3報とコホート研究および症例対象研究それぞれ1報をレビューし、OC服用により卵巣がん発症リスクが約50%低下することが報告されていることから、エビデンスの確実性は中としている。一方、乳がん発症リスクに関するアウトカムは、メタ解析ではBRCA1/2の病的バリアント保持者のいずれもOC服用によるリスク上昇はないと報告されているが、コホート研究と症例対象研究の中には長期服用によるリスク上昇を報告したものがあり、エビデンスの確実性は弱とした。以上から、卵巣がん未発症のBRCA病的バリアント保持者に対し、卵巣がん発症リスク低減を目的とするOC/LEPの内服は条件付きで推奨、としている。

監修コメント

監修 上田 豊 先生のコメント

 婦人科においても、BRACAnalysis診断システムやmyChoice診断システムによりBRCA statusを調べることが身近なものとなり、各施設で検査のタイミングや方針が検討されているものと思われる。講演で述べられたとおり、卵巣がんにおけるPARP阻害薬の使用に関係した場合だけでなく、卵巣がん未発症のBRCA病的バリアント保持者への対応も我々の重要な役割であろう。死亡率の高い卵巣がんの治療と予防に努めていく必要がある。

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