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Gynecologic Oncology today 創刊号

​第60回日本癌治療学会学術集会:婦人科がんトピックス

O45-5 進行・再発子宮体癌におけるがん関連遺伝子解析 ~多施設共同臨床研究(ECGAstudy)~

織田 克利 先生(東京大学医学部附属病院 ゲノム診療部)

更新日:2022年12月20日

 進行・再発子宮体がんにおけるがん関連遺伝子変異を同定した多施設研究の結果、PTENKRASARID1AなどTCGA(The Cancer Genome Atlas)データセットで高頻度に認められる遺伝子変異は少なく、TP53BRCA1/2MSH2などのDNA修復関連遺伝子の変異が高頻度だったことが明らかになった。

 本研究では日本国内12施設から標準治療が終了しているかに関わらず、進行・再発子宮体がん患者102例が登録された。Oncomine Comprehensive Assay version 3を用い、RNAパネルを含む計161のがん遺伝子について解析した。

 患者背景は年齢中央値が63歳、組織型および分化度は類内膜がんgrade1 21.6%、類内膜がんgrade2 19.6%、類内膜がんgrade3 14.7%、漿液性がん18.6%、明細胞がん5.9%、混合がん10.8%、未分化がん3.9%であった。FIGO分類は、Ⅰ期16.7%、Ⅱ期5.9%、Ⅲ期33.3%、Ⅳ期44.1%だった。

 高頻度に発現した病的バリアントは、PIK3CA 34.3%、TP53 21.6%、PTEN 15.7%、BRCA1 5.9%、MSH2 4.9%、BRCA2 3.9%、などで、TCGAデータセットにおいて子宮体がんtype1で高頻度に見られるPTENARID1APIK3R1KRASの変異は少なく、同タイプでは稀なTP53BRCA1/2RB1の変異が高頻度という特徴が見られた。

 

 変異の一覧を見ると、TP53変異はPIK3CA変異と共存していた一方、それ以外のPI3キナーゼ/AKT経路(PTENAKT1)およびβカテニン(CTNNB1)の遺伝子変異とは相互排他的であった。ミスマッチ修復遺伝子の変異は唯一MSH2が5例(4.9%)に検出され、このうちバリアントアレル頻度(VAF)が50%前後だったのは1例(VAF:56.8%)だけであった。同症例はリンチ症候群が疑われる。BRCA1変異は6例、BRCA2変異は4例、計8例(7.8%)で検出されたが、重複が2例に見られ、VAFが高かったのはBRCA1変異の1例(VAF:40.5%)だけで、それ以外はVAFが2割に満たず、これらは生殖細胞系列由来ではなく体細胞由来であることが疑われた。またこのうち3例はMSH2変異を有するか、遺伝子変異量が多い(TMB-High)腫瘍で同定されたことからパッセンジャー変異として検出されている可能性を考慮する必要がある。

 3例に融合遺伝子が検出された。NTRK1融合遺伝子(TPR-NTRK1)、ESR1融合遺伝子(ESR1-CCDC170)およびPIK3CA融合遺伝子(TBL1XR1-PIK3CA)であった。NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発固形がんの治療には、ROS1/TRK阻害薬が2019年6月に世界に先駆けて本邦で承認されている。

 同定された遺伝子変異のうちActionableな遺伝子変異(治療につながり得る遺伝子変異)はTier 1が1%(ROS1/TRK阻害薬1例)、Tier 2が48%(AKT阻害薬49例、ATR阻害薬4例、FGFR阻害薬4例、PARP阻害薬8例)と限られており、PI3キナーゼ経路などを標的とした新たな治療戦略の開発が必要であることが示唆された。

 また、デジタルPCRを用いて血液サンプルでのPIK3CAAKT1の異常を調べた。それを腫瘍組織検体の結果と照らし合わせ、リキッドバイオプシーの検出力を検討した結果、いずれの遺伝子も偽陽性率は極めて低い(真陰性率:PIK3CA 100%、AKT1 99%)のに対し、偽陰性が多い(真陽性率:PIK3CA 36%、AKT1 20%)ことが明らかとなった。腫瘍組織検体の重要性が示唆されるとともに、子宮体がんにおけるリキッドバイオプシーの検出力向上が今後の課題であることが浮き彫りとなった。

監修コメント

監修 上田 豊 先生のコメント

 多施設共同臨床研究ECGA studyの報告である。進行・再発子宮体がん102症例においては、これまでTCGAデータセットで高頻度に認められてきたPTENKRASARID1Aなどより、TP53BRCA1/2MSH2などのDNA修復関連遺伝子の変異の方が高頻度に検出され、また同定された遺伝子変異のうち現状でActionableな遺伝子変異は必ずしも多くなかったようである。これらの結果を踏まえ、進行・再発子宮体がんに対する新たな治療戦略の構築が急がれる。

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