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婦人科腫瘍研究会 インタビュー

婦人科がん臨床試験コンソーシアム(GOTIC)

藤原 恵一 先生(埼玉医科大学国際医療センター 婦人科腫瘍科 教授)

更新日:2023年6月22日

●発足の経緯と活動の目標

 婦人科がん臨床試験コンソーシアム(GOTIC)は、2009年2月23日に北関東4県(埼玉、栃木、群馬、茨城)における婦人科がん領域の臨床研究の振興を目指し、一般社団法人「北関東婦人科がん臨床試験コンソーシアム」として活動を開始した。GOTICの理念は婦人科悪性腫瘍領域における治療の発展および社会貢献であり、具体的な事業として医師主導臨床試験による新たなエビデンスの構築とそれに基づく至適治療法の開発、臨床試験に従事するスタッフの教育を掲げている。

 

●臨床研究グループとしてのGOTICの特徴

 諸外国、特に米国における医師主導臨床研究では、研究者と患者の間に看護師(clinical research nurse)が存在する。GOTICではこのスタイルを導入するとともに、組織内に“リサーチナース委員会”を設置し、患者のためとなる臨床研究が実践できる体制を整えた。同委員会ではPatients and Public Involvement(PPI;研究への患者・市民参画)の概念に則った臨床研究の進め方についての検討が行われ、研究目的が現在および将来の患者への貢献であることを常に意識するよう心掛けている。

 

●臨床研究における業績と臨床研究・治験ネットワークの構築

 GOTICは、発足から1年程経過した2010年5月から大規模ランダム化比較試験であるiPocc試験(GOTIC-001/JGOG 3019/GCIG)およびLUFT試験(GOTIC-002)の患者登録を開始した。これらの臨床試験には北関東だけでなく日本全国の施設が参加したことから、2020年6月に法人名を「婦人科がん臨床試験コンソーシアム」に変更した。

 また、iPocc試験の開始とともに国際的な婦人科がんの臨床研究グループであるGynecologic Cancer Intergroup(GCIG)に加盟して同試験を共同で進め、さらに、フランスの臨床研究グループGroupe d'Investigateurs Nationaux pour les Etudes des Cancers de l'Ovaire(GINECO)が中心となって実施したPAOLA-1試験(GOTIC-014)にも参加した。2017年には、術前に無症候性の静脈血栓塞栓症(VTE)が発見された婦人科悪性腫瘍患者を対象に、術後症候性肺塞栓症(PE)発症の総合的予防法を検討する多施設単群検証的試験(GOTIC-VTE)を開始、2019年以降は新たなコンセプトを持つ第I相/第Ⅱ相試験を医師主導治験として行うようになった。

 

臨床研究用の資金調達と次世代研究者の育成が課題

 臨床研究を遂行する上での最大の障壁は資金である。この点は永遠の課題である。解決のための妙案も近道もなく、資金調達の可否は、突き詰めれば臨床ニーズの高いテーマを発見し、いかに優れた臨床研究をデザインして提案できるかにかかっている。

 もう1つの課題は、今後の医師主導臨床試験を牽引する若い研究者の育成である。しかしながら、日本人の若手医師は臨床試験に興味がないように見えるのが実情である。臨床研究は面倒、自らエビデンスを構築せずとも欧米の研究者がつくってくれる、それらに基づく診療ガイドラインもある、それを利用することのどこがいけないのか、と考える若手医師も少なくない。ことわざの“馬を水辺に連れていくことはできても、馬に水を飲ませることはできない”のように、いくら必要性を説いても本人にその気がなければ無駄である。このように、現状は“笛吹けども踊らず”であるが、良好な成績が得られたiPocc試験の結果を積極的に発信することにより、若手医師が「新しい治療法はこのような形で患者に届けられるのか」「自分たちにもできることがあるならやりたい」と感じてもらうことが重要である。

 臨床研究に対するハングリー精神を失った日本人若手医師とは反対に韓国やベトナムなどの研究者は臨床研究に対する熱意に溢れている。加えて、資金の面などから第Ⅲ相比較試験はもはや日本国内のみの実施は困難であり、国際化が必要な状況である。そのため、現在、既存のアジア先進国ネットワークを成長過程にあるAsia、Oceaniaにまで拡大するプロジェクト(APGOT:Asia-Pacific Gynecologic Oncology Trials Group)が進められている。このプロジェクトの狙いは、人種差の少ないアジア地域で経済発展と同時に拡大する医療ニーズに呼応する臨床試験を妥当なコストで行うとともに、研究提案に対する潤沢な資金提供を得ることにあるが、次世代の臨床研究を担う人材の育成という点においても重要である。

 

●医師主導臨床研究についての将来展望

 私が初めて臨床試験に携わった30年前は臨床試験のノウハウはなかったが、それでもどうやればエビデンスが構築できるのか熱心に研究が進められた。その後、臨床試験にまつわる大規模な不祥事が起きたことから、今ではさまざまな法律によって規制され、ことあるごとに契約を締結しなければならず、それにかかる事務作業は膨大な量となっている。これらは資金と同様、医師主導臨床研究を行う上での大きな障壁となっている。そのような障壁をクリアしながらの医師主導臨床研究の推進は難しく、今後も状況の好転は望めないものの、“婦人科悪性腫瘍領域における治療の発展および社会貢献”というGOTICの理念の実現を目指し、社会の環境変化を見極めながら最善の道を模索することが求められている。

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